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2017 春号 Vol.99

税務・法律・人事・労務管理相談

遺言の活用とその限界

1.高まる遺言の重要性

65歳以上の高齢者が国民の4人に1人の割合を占める中、2001年以降、遺産分割事件は、ほぼ毎年増加しています。この傾向は、2015年に相続税法が改正され、相続税の課税対象者が拡大したことによって、今後ますます強まることが予想されます。
こうした状況下、財産の円滑な承継を行うためのツールとして、遺言の活用が注目されています。その意義と限界について解説します。

2.遺言とは何か

遺言は、遺言者の明確な最終意思を尊重して、それに法的効果を与えようとする制度です。
財産の引き継ぎ方として、民法は、(1)法定相続分通りに財産を分ける、(2)相続人間で遺産分割協議を行って誰がどの財産を取得するかを決める、という2つの原則的方法を定めています。しかし、被相続人が遺言を残していた場合は、遺産分割協議をせずに、法定相続分にも左右されず、被相続人の希望通り、円滑に財産を引き継ぐことが可能となります。民法は法定相続分主義を建前としながら、遺言があればそれを優先することとして、被相続人の意思を尊重しているのです(ただし、遺留分による制約はあります)。

3.遺言の方式

遺言は、被相続人の明確な意思を確認するため、厳格な様式行為とされ(民法960条)、方式も7種類(普通方式3種類、特別方式4種類)に限定されています。これらの方法を履践しないと、遺言としては無効とされるので注意が必要です。このうち、普通方式には、次のような長所と短所があります。

①自筆証書遺言
遺言者が遺言書の全文・日付および氏名を自書し、これに押印することによって成立する遺言です(民法968条1項)。文字さえ書ければ独力で作成可能、費用がかからない、遺言の存在を相続人らに知らせないでおける、というメリットがある反面、方式上の不備や偽造・変造のリスクがあるため、遺言の有効性をめぐるトラブルが生じやすいというデメリットがあります。
②公正証書遺言
遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書を作成する形式の遺言です(民法969条)。専門家が関与するので、方式上の不備等をめぐる紛争や偽造・変造がおきにくく、自署できない者でも利用可能です。ただし、公証人とのやりとりに時間と費用がかかりますし、遺言の存在を秘密にしにくいというデメリットもあります。
③秘密証書遺言
遺言者が、遺言者または第三者の書いた遺言書に署名・押印して、それを封じ、証書に用いた印章で封印し、公証人一人および証人二人以上の前に封書を提出する方法です。自署する必要はなく、他人に書かせても有効です。遺言を秘密にしながら、偽造・変造のおそれを少なくすることができます。

4.遺言の効力と留意点

  1. 遺言は、遺言者の死亡のときから効力を発生します(民法985条1項)ので、遺言によって利益を受ける者は、遺言者が生きている間は、何ら法律上の権利を取得することはありません。
  2. 遺言者は、いつでも遺言の全部または一部を撤回することができます(民法1022条)。前の遺言内容と後の遺言内容が抵触する部分については、前遺言が撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。
  3. 所定の方式に従っていない遺言、遺言能力が欠如した者の遺言(15歳未満の者がした遺言や意思能力を失っている状態で作成された遺言)、公序良俗に反する遺言は無効となります。

5.遺言の限界~家族信託の活用に向けて~

遺言にもいくつかの限界があります。

  1. 被相続人が、認知証によって自らの意思を相手に伝えることができないような状態(意思無能力状態)では、有効な遺言をすることができません。このような場合には、成年後見制度を利用することが考えられます。しかし、後見人はあくまでも裁判所の許可を受けながら本人の権利を守る援助者としての位置づけであるため、被相続人の財産を消極的に管理することはできても、相続税対策や生前贈与などの積極的な財産管理には向きません。
  2. また、被相続人の意思が尊重されるといっても、遺留分を侵害するような遺言は無効とされます(もちろん、遺留分権利者が権利主張しないために問題が顕在化しないことはありえます)。

こうした遺言の限界に対処する一つの方法として、最近では改正信託法に基づく、家族信託の活用が提唱されています。たとえば、信託を活用することで、受託者の権限による継続的かつ積極的な財産管理が裁判所の許可なしに可能となります(限界①の克服)。また、特定の後継者にのみ受益権が渡るように設計した、いわゆる「遺留分対抗型信託」を組むことで、遺留分減殺請求権の主張にある程度対抗することも可能になると考えられています。ただし、遺留分と信託契約の詳細な優劣関係については、今後の判例の動向に注視する必要があります。
今後は、遺言を中心に、被相続人の状況や財産、相続人との関係性を考慮に入れつつ、成年後見や家族信託を補完的に組み合わせた財産の承継が重要になると思われます。
(遺言・成年後見・家族信託に関するお問い合わせは、税理士法人青山&パートナーズまで)