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2017 夏号 Vol.100

税務・法律・人事・労務管理相談

相続税から農地を守る生産緑地制度と農地の相続税納税猶予制度

●生産緑地法の改正

去る4月28日、「生産緑地法の一部改正」法案が参議院本会議で可決成立しました。現行の生産緑地法により平成4年に生産緑地として指定された農地が指定後30年経過するのを受け改正されたもので、改正により面積要件、設置できる施設の追加、買取り申出期間を10年とするなど現行の生産緑地法より規制が緩やかになり継続されることになりました。
生産緑地地区に指定された市街化区域内の農地の固定資産税は、市街化調整区域内の農地の固定資産税と同一水準で、固定資産税の負担が大変軽くなっております。また、相続税においても農地の相続税納税猶予制度が適用できるため、この適用により相続税の負担を大きく軽減できます。

●農地の相続税納税猶予制度

農地の相続税納税猶予制度とは、農業を営んでいた被相続人から生産緑地農地(市街化調整区域内農地を含む)を相続した相続人が、その農地につき引き続き農業を継続する場合に適用できる相続税の特例制度です。この特例を受ける生産緑地農地は、相続人が取得した生産緑地農地の全部でも一部でも、一筆の一部(必要な場合は分筆を要します)でも適用することができます。
この制度を適用した場合の相続税は、特例を受ける生産緑地農地について農業投資価格(東京都内の畑で10㌃につき84万円)を評価額として算定した相続税を期限内に納付し、特例を受ける農地について一般の価額で算定した相続税との差額については農業経営をしている間は納税を猶予し、終生(死亡まで)農業経営をした場合はこの差額を免除する制度です。
立川近辺の生産緑地農地10アール当たりの評価額は一般に1億円を優に超えております。こうした中、農地10㌃あたり84万円(畑の場合)として相続税を算定しますので相続税の負担が大変小さくなります。
また、この特例を適用した場合、特例の適用をしない他の相続人の相続税も前記農業投資価額を基礎に算定した相続税となり、累進税率が避けられ、これもまた大変有利となります。
この制度で相続税の免除を受けるには「終生(死亡)まで農業経営する」という条件をはじめ、いくつかの条件があり、これらを満たすためには後継者の確保が重要となりますが、先祖から受け継いだ農地を孫子の代まで承継させたいと望む農家にとってはなくてならない制度です。

●相続人の内に被相続人の配偶者がいるとき

農地の相続税納税猶予制度の適用にあたり、相続人の内に被相続人の配偶者がいるとき、その配偶者(遺産の法定相続分以上を取得)がこの特例を受ける生産緑地農地を取得し、その農地につき同居の長男が農業経営を継続する場合でもこの特例を適用できます。
この場合は、農地の相続税納税猶予制度と配偶者の税額軽減が重ねて適用されますので更に有利となり、「終生(死亡)まで農業経営する」とは、同居の長男の終生ではなく、農地を取得した配偶者の終生となりますので、猶予税額の免除までの期間は、長男が特例を受ける農地を取得した場合より短縮されるかと思われます。
また、相続税の計算にあたっては、被相続人と農業承継者との「同居」は、大変重要で、農地の相続税納税猶予制度の適用だけでなく、小規模宅地の特例が居住用宅地(評価額を最大330㎡まで80%減額)と事業用宅地(評価額を最大400㎡まで80%減額)が併用可能となった平成27年以降はより重要となりました。

●農地の納税猶予制度の適用にあたって

現実として、多くの農家では、農業収入のみで生活を維持するのが大変困難な状況です。こうした中、先代から受け継いだ農地につき、その全部を終生の間、農地として保存するのは困難かと思われますが、生産緑地農地の取得者の年齢、将来の生活状況等を勘案し、納税猶予制度を適用し保存する農地と、転用又は処分する農地との区分案をいくつか作成し、その区分案に沿い算定した相続税を比較検討し、この特例を適用したいものです。